辻村深月の短編集「ロードムービー」が新書版で出た。
ロードムービー (講談社ノベルス)
辻村 深月
講談社 2010-09-07
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この作品は、デビュー作「冷たい校舎の時は止まる」の主人公たちのその後(およびその前)を描いた派生作品集だ。
ただし、いわゆるシリーズものとは違って登場人物のフルネームが最初に明かされることはない。多くの場合名前は伏せられているか、愛称が使われることによってすぐには誰とわからないような仕立てになっている。ただ、気をつけて読めば口調や職業、愛称などにヒントは隠されているので、誰が誰なのかを一話ごとに推理しながら読み進めていくのも楽しみのひとつと言っていいだろう。もっともぼく自身は「冷たい校舎」を読んでからだいぶたっていたので、読んでいる最中は誰がだれだかほとんどわからなかった。それでも、読み終わってからパズルのピースが次々とはまっていくのもなかなか楽しい感覚だった。
また先に出た単行本から二篇が追加になっているが、うち一篇は「冷たい校舎」とのつながりではなく、この本自体に含まれるある一篇とのつながりになっている。これがまたこの作品集全体の奥行きを深める結果になっていることも付け加えておこう。
そんなわけで、「ロードムービー」を読んでいるうちに親作品を読み直したくなって、「冷たい校舎」を再読した。
冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)
辻村 深月
講談社 2007-08-11
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冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)
辻村 深月
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そこであらためて思ったのは、これはとても重い作品だなあということだ。辻村深月は生きた会話を描くのがうまく、そのためか割とすんなり読めてしまうのだが、その実扱っている題材はおそろしく重い。
例えばいじめ、例えば自殺--これは「名前探しの放課後」とも重なる部分だ。また、デビュー第二作「子どもたちは夜に遊ぶ」では凄惨な連続殺人が題材に採られていた。しかも辻村深月の筆は心理の奥深いところまでズンズン入っていくから容赦がない。
それでもウンザリすることもなく意外と軽快に読めてしまうのは、先にも述べたように会話と心理描写が生き生きとしていてとても自然なのと、最後に突き抜けるようなオチがどんでん返しとともにきっちり用意されているからだろうか。
ところで、「冷たい校舎」を再読しながら、「ロードムービー」で描かれた主人公たちのその後(またはその前)を思うと、また感慨深いものがあった。井坂幸太郎もそうだが、作品の登場人物を別の作品にも(シリーズものということではなく)さりげなく登場させる作家は近年増えているような気がする。しかし、多くの場合それは読者サービスのレベルにとどまっているのではないだろうか。
しかし、辻村深月の場合はある登場人物が作品をまたがって描かれることによって物語が重層化し、そこにある世界観がいっそう豊かなものになっているように思う。
辻村深月ほど、物語を重層化することで登場人物とその内面を生き生きと描き出す作家をぼくは他に知らない。