2006年7月13日木曜日

ナイフ(重松清)

重松清の「ナイフ」(新潮文庫)を読んだ。全篇がいじめを題材にとった重い短編集だ。

ナイフ (新潮文庫)ナイフ (新潮文庫)
重松 清

新潮社 2000-06
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いじめられている息子を持つある父親。

負けることが嫌いな彼は、いじめられてもやり返せない息子の不甲斐なさが許せない。

…昔ヤクルトに荒木大輔というピッチャーがいた。甲子園で天才投手と呼ばれた彼は、プロに入ってから故障の連続で、結局鳴かず飛ばずだった。

引退を囁かれ、球団からもう来期の契約はないと言われても諦めようとしない、父親はそんな荒木の大ファンだった。だから生まれてきた息子にも「大輔」と名付けた…

だから父親は、荒木大輔のような不屈の精神を見せてくれない息子が歯がゆくて仕方がないのだ。


子ども中心主義で考えれば、問題も答えも明らかだろう。

子どもにプレッシャーをかけてはいけない。重荷を背負わされた子どもは萎縮してしまい、本来の個性を発揮できなくなってしまうから。

子どもの立場に立って子どものやりたいようにさせてやるべきだ。父親は間違っている、と。


「正解」を言うのは簡単だ。だが、誰もその道筋は示してくれない。


先の父親は葛藤の果てに、自分の信念が息子を苦しめていたことに気づく。

だが、重要なのは何が正解かではないのだ。重要なのはそこにたどりつくまでの過程の方だ。


何故なら、子どもにとって正しいことをしてやるのが親の役目ではなく、子どもとともに生きることが親の役目だからだ。

正しいことと同じくらい、間違っていることに意味がある。

生きるとはそういう過程(プロセス)だ。


重松清は、そう教えてくれる。